ぱらぱら、と本のページを捲りながら、左手で長い黒髪を
引っ張ったり指に絡めたり撫でたりと弄ぶように触る。

ベットに座っているオレの背後で、密着するように寝転がるエンヴィーが小さく欠伸をした。
構って、と言われたから左手だけで曖昧に相手をしている。
それだけで十分なのか、そうしていると黙ったまま大人しくしていた。

掴んだ髪を手放すと、エンヴィーの顔にぱらぱらと落ちる。
エンヴィーはくすぐったそうに首を振ってからのそりと上半身を起こした。


「本読んでないなら遊んでよ」
「…いま読んでるだろ」
「読んでないよ。さっきから適当にページ捲ってるだけだし」


そう言われて自分でもはっとした。
左手で触れる黒髪に集中しているせいで、正直内容をあまり覚えていない。
自分でも気付かなかったことのによく分かったな、と少し呆れた。
それだけオレは見つめられていたのだろうか。


「ねー遊んでよ」
「…また今度な」
「今度っていつ。遊ぼう」


にこり、と無邪気な子どもの笑顔に苦笑した後、あそぼう、という声にはっとした。
嫌な記憶が一瞬思い出されて目を見開く。
ぼんやりエンヴィーに視線を向けると、やっぱり微笑まれた。
やっと目を合わせたことに喜んだのかと思ったけど。
なんだか違う。目の奥では笑っていない冷たい色があった。


「ねぇあそぼう」
「…止めろよそれ」
「どうして?」
「…」


知っててやってるんだな、と確信した。
あの事件をこいつが知らないはずがない。
最初は無自覚だったけど、オレの反応に気付いたのだろう。
さいあく、と喉の奥で呟くとエンヴィーがにこりと笑う。
今度こそ悪戯する子どもみたいな微笑みだった。


「まだ気にしてるんだ」
「…忘れるわけないだろ」
「どうして。もう過ぎたことでしょ」
「お前には分からないだろうな」
「うん。人間なんてちっとも分からない」


あっさりとそう言ってから、静かに目を細める。
少しだけ不穏な空気が漂った。
やっぱりこんなやつ嫌いだ、と横目で睨むと、笑っているわけでもなく無表情のままじっとこちらを見つめている。
なにか感情を押し殺したような表情だった。


「おチビさんが背負ったって無意味だよ。ただの荷物になるだけ」
「荷物だと?あれはオレの罪だ」
「どこに君の罪があるの」
「小さな女の子ひとり救えなかったんだ。オレの、せいだ」


ゆっくりそう吐き出すと、エンヴィーが苛立ったように目を細める。
小さく舌打ちする音が聞こえた。


「女の子ひとり死んだくらいで何になるの」
「…んだとてめぇ」
「もし救えたとしたら、なんて考えてたってなにも変わらないじゃない」
「あぁたしかにそうだな。だからって忘れるわけにはいかないだろ」


明るい笑顔が、オレの無力のせいで奪われるなんて嫌だった。
絶対に忘れない。これ以上オレが同じ過ちをくり返さないためにも忘れたら駄目なんだ。
だってあの時気付いてあげれたら。もう少し早く行っていれば間に合ったかもしれないのに。
悔しさにぎゅう、と右手を握り込むと、じっとエンヴィーが見つめてくる。


「身体を取り戻すための旅には何の関係もないよ」
「…」
「しょうがなかったんだから。もう現実は変えられないよ」
「しょうがないだと!?人の命だぞ!?」
「そうだね、ひとつしかない大事な命だね」


それを君は自分で手放そうとした、と睨まれて。
なに、と困惑していると右腕を掴まれて引き込まれる。
間近で見る焦燥の色が混ざった紫の目に思わず息を呑んだ。


「なんで逃げなかったの。あの時走って逃げれたでしょ」


なにを言っているのか一瞬分からなくて、吃驚したまま見返していると。
スカーに襲われた時のことを言っているんだ、と分かった。
無意識に睨みつけてくる目から視線を逸らすと、ちゃんとこっち見て、という重低音が響く。


「…アルが、殺されるかもしれなかったんだぞ」
「弟が助かるなら自分はいいって?なにそれ」
「…」
「取引したでしょ。君の言う大事な人の命ってやつを」


そんなの許さない、といつにない苛立ったような声に困惑して見上げると、
肩を掴まれて思いっきりベットへと押し付けられた。
あっさりと倒れ込んで、背中に走った衝撃と肩を掴んでくる手が痛くて息を詰める。


「たしかに利口な取引だったね。君の弟を救うなら」
「…」
「だからって死ぬ方を選ぶなんて間違ってる」


ぼんやり見上げながら、ただ黙って紫の色を見上げる。
なんでそんなことしたの、と吐き出すように叫ばれて目を細めた。
泣いているわけじゃないのに、生理的な涙で視界が微かに歪む。


「…オレは、なにも持ってないんだ」
「…」
「人を守れる強さなんか、持ってない」


自分の命を放り捨てるしかできなかった。
それしか方法が分からなかった。
そう掠れた声で言うと、なぜかエンヴィーが苦しそうに顔をゆがめる。
肩を掴む手の力が緩んだと思ったら、覆い被さるように抱き込んできた。
ふわり、と嗅ぎ慣れた匂いと低い体温に包まれる。


「辛いこと思い出さなくていいから。振り返ったりなんかしないでよ」
「…」
「真っ直ぐ前を見て歩く君が好きなんだから」


くじけないで、と懇願するような震えた声に、微かに目を細める。
溜まっていた涙が一滴だけ零れた。
それが頬を伝ってシーツに落ちて、じわりと跡形も無く浸透する。
無意識に背中に腕を回して、ぎゅう、と胸元に縋り付いた。



オレは何と引き換えに幸せを得るべきなんだろう。















































よくやった!戻っていいぞ!



立ち上がって強くなっていくえどえどをアニメで見れるこの喜び



ほとんど有害。

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kuru+kuru | Gamin