※えどわどがにゃんこです。
おチビさんの年齢(精神年齢?)が幼いです。
いわゆるショタ(風味)注意。
カリカリ、というなにかを引っ掻くような音に手を止めて、じっと耳を澄ませる。
太陽が真上に昇ろうとする頃にようやく目が覚めて、
焼いたばかりのパンにバターを塗りながらきょろきょろと部屋を見渡した。
料理を作っていたり、なにかを食べていたり。
食べ物が関係しているのかもしれないけれど、
いつもこの音が聞こえるタイミングはそんな時ばかりだった。
最初はあまり気にしなかったけれど、
それに気付いてからは音の正体が気になって仕方が無くて、
料理を作ったり食べたりするときは極力物音を立てないようにしている。
音が聞こえ始めたら、音の正体を探るために家中の捜索開始。
虫が歩いているかのようなあまりに小さいその音は
注意深く聞いていたってどの方向から聞こえるのか見当もつかない。
部屋中を見て回ったり、散乱している物を避けてみたりするけれど
いつもそうしている間に音がぴたりと止んでしまう。
グラタンが冷めた、と誰に対してでもなく不平を言いながらまた食事を再開して、
あの音はなんだろう、とぼんやり思いながら眠ること数日。
今度こそ、とバターを塗ることを中断して椅子から立ち上がって、じっとその音を聞いた。
たとえ音を立てている犯人が本当に虫だとしても、
正体が分からないうちは本当に怖い。
未確認生物に家を侵略されているかのような焦りを感じる。
しゃがんで床に耳を当ててみたら、カリカリ、という音がほんの少し近くなった気がした。
のろのろと立ち上がって、こっちだろうか、と野生の勘に頼りながら前に数歩進む。
もう一度床に耳を当てると、さっきより音が近くなった気がして
ぺたぺたと床を這いながら前に進んだ。
カリカリ、という音が近くなる。
玄関から聞こえているのかもしれない。
そう思ってドアノブを思い切って掴んだ。
そろり、と10センチほど扉を開けると、ぴたりと音が止んだ変わりに
隙間から顔を覗かせる未確認生物が一匹。
にゃあ、とそいつは鳴いた。
未確認生物はとても服とは呼べない泥だらけのボロ切れを纏っていて、
裸足で歩く度にばらばらと砂を振りまく。
掃除したばっかりなのに、としゃがんで砂をかき集めてみるけれどキリが無い。
「…あのー」
遠慮気味に呼びかけると、くんくん、と匂いを嗅いで歩き回る未確認生物がくるりと振り向いた。
外見は5歳くらいの子どもと変わらない。
のに、金色の髪と同色の猫らしい耳と尻尾がある。
こんな人(と言っていいのか猫と言っていいのか)は、もちろん見たことがない。
音を立てている張本人はやっぱり未確認生物だったらしい。
そんなことを思っている間に猫は(面倒だから猫ということにする)椅子によじ登って
テーブルの上の食パンに手を伸ばした。
お腹空いてるのかな、と覗き込むと、泥だらけの手で食パンを掴んで食べようとしている。
それはさすがに駄目だろう、と手首を掴んで制止すると、不思議そうに見上げてきた。
猫って水嫌いだっけ。
ぼんやり思いながら泥だらけの猫を抱えて風呂場に向かった。
随分お腹が空いてるみたいだし、せめて泥だけでも落ちれば、と思ったのに
暴れる上に噛み付くし引っ掻くしで時間ばかりが経ってしまった。
ようやく綺麗になって風呂場から出る頃にはあちこち傷ができている。
それも自分だけ。
あれだけ暴れて無傷なのも珍しい。
なにを食べさせていいか分からないから、とりあえず浅い皿にコーンフレークを入れてみた。
じっとそれを見つめて、ゆらゆら、と尻尾を揺らす。
なにかを考えている時に尻尾が動く、なんて聞いたことがあるけどよく分からない。
牛乳を注いでからスプーンで口元まで運んでやった。
匂いを嗅いで、嫌そうに顔をしかめる。
ぶんぶん首を振って暴れた拍子にお皿をひっくり返してくれた。
「…この猫」
むかつく。
「にー」
「にー、じゃないよもう…」
飛び散った牛乳やコーンフレークに思いっきり息を吐くと、
わからない、というように目を瞬かせて首を傾げる。
軽く頭を叩いてやろうと手を伸ばすと、びくり、と身体を跳ねらせて俯いた。
ボロ切れを纏っている時から見えていた腕や足は傷だらけで、
服の下も、とにかく身体中が痣や傷でいっぱいだった。
いくら野良だからといっても、こんなに傷ができるのも不自然だ。
なにかあったのかも、と手を引っ込めて覗き込むと、怯えたように見返される。
人間とも猫とも取れない未確認生物がいれば、普通は実験所送りだろう。
虐待とか監禁とか、有り得るかもしれない。
がしがし、と頭を撫でてから柔らかい耳を触ると、安心したのかこちらを見上げてふわりと微笑んだ。
あ、意外とかわいいかも。
コーンフレークだけ入ったお皿を差し出すと、首を傾げて匂いを嗅ぎ始める。
サイズの合った服がないから、今は仕方なく寝巻き代わりのTシャツを着せた。
「…ほとんど人間の姿だからキャットフードも悪い気がするし」
指先でコーンフレークを摘まんで、口に放り込んでやった。
「これしかないから、今は我慢してね」
がりがり、と噛み砕いて飲み込んで、今度は満足そうに微笑んだ。
幸せそうでなにより。
動物は嫌いじゃない。
買い置きの歯ブラシを口に突っ込むと、うー、と唸ってそれにがじがじと歯を立てた。
押しても引いてもびくともしない。
「もしもし、離してくださいな」
人の言葉を理解できるのかできないのか、イマイチよく分からない。
ぶんぶん、と不意に首を振り始めたせいでそれを手放してしまい、
勢いで歯ブラシが部屋の隅まで転がっていた。
ぱたぱたと走ってそれを追いかける猫の背中をぼんやり眺めて、がくりと肩を落とす。
仕方ないからうがいだけで済まそう、とソファの下に入ってしまった
歯ブラシを探して床に伏せている猫を抱き上げた。
そのまま洗面所に向かうと、ぱたぱたと尻尾が揺れる。
なにを考えているんだか。
それからしばらくうがいをさせようと口に水を含ませるけれど、
吐き出したり飲み込んだりするばかりでちっともできていない。
口に含ませるたけでもかなりの苦労だ。
「…どうだ、参ったか」
何度も口に水を流し込まれて不機嫌そうな猫を床に下ろすと、
逃げるようにリビングまで走っていって姿が見えなくなる。
実際息を切らして参ってしまっているのはこちらだけど。
のろのろと後を追うと、テーブルの上に置いたままだった
コーンフレークの箱に手を突っ込んでいた。
テーブルの上に上がらないよう躾もしないといけないらしい。
「…うがいしたばっかりでしょ」
「にゃー」
「はいはい、にゃー」
箱を棚の上に置いて猫を抱き上げると、無邪気に微笑まれた。
基本的に子どもは嫌いだけど、この子は不思議なことに世話を焼きたくなってしまう。
母性本能をくすぐる、というのか。
抱き上げたままぼんやり見つめて、寝室まで運んでやろうと廊下をのろのろと進む。
人懐っこい性格なのか、大人しく身体を預けて眠たそうに目を細めた。
ベッドに寝転がってから隣に横たえてやると、困惑したように見上げられる。
「みー、」
どうすればいいの、という言葉は猫語が分からなくったってよく分かる。
落ち着かないのか、もぞもぞ、と布団の中で動き回っていたけど
慣れた頃には擦り寄って眠ってくれた。
肩より少し長いふわふわとした金髪に触れると、ぱたぱた、と耳が少しだけ跳ねる。
「…どうしようかなこの子」
動物は、嫌いじゃない。
目が覚めてすぐに、隣に猫がいないことに気付いた。
ベッドの下やあちこちの部屋を見て回った結果、にゃあ、という頭上から降ってきた鳴き声に見上げると
棚の上でコーンフレークの箱を抱えて、ばりばり、とそれを美味しそうに頬張っていた。
テーブルに上らないよう、棚の上に隠したらすぐにこれだ。
「…いますぐ下りなさい」
「にー」
ゆらゆら、と揺れる尻尾を背伸びして掴もうとすると、奥の方まで後ずさってしまった。
ぺたりと壁に背中をつけて座って、ほこりや食べカスで汚れるのも気にせず箱の中身を堪能している。
こうなったら反省するまでは口を利いてやらない。
はぁ、と息を吐いて洗面所に向かって、あ、歯ブラシ探さなきゃ、とぼんやり思った。
歯磨き粉はいちご味なら大丈夫だろう。
数分後、案の定リビングの方からにゃあにゃあと鳴き声がし始めた。
心配になって覗こうとして、ぐっと踏み止まる。
反省するまでは放っておこうと決心したばかりなのに。
動物には、特にあの子には甘いらしい。
遊んで、と昨日も散々夜中に鳴かれたから、無視しておけば効くかもしれない。
そう思ったのに、こちらの姿を探さずに鳴き続ける声がやけに情けなくて、
あーもう、と呟きながら仕方なくリビングに向かった。
無造作に床に転がっている箱からは中身が散乱していて、
にゃあにゃあ、と鳴いている猫は棚のギリギリ端っこからこちらを見下ろして鳴いている。
夢中になっている間に落としたらしい。
「…下りれないの?」
自業自得だ、バカ猫め。
「にー、にゃあ…」
重力に逆らわずに尻尾が垂れていて、身体も声も微かに震えている。
片手をこちらに向けて伸ばして、落ちそうになって慌てて後ずさる、とくり返していた。
いま小さな発見をしたから、少し聞いてほしい。
この猫は左利きみたいです。
近くにある椅子を見下ろして、がたがた、と棚のすぐ近くまで引き摺って運ぶと、
精一杯両手を伸ばしてしがみつこうとする。
意外と涙目だったから、相当怖かったらしい。
椅子の上に立って抱き下ろすと、ぎゅう、と首に腕を回して顔を埋めてきた。
ひっく、としゃくり上げ始めたからさすがに焦って頭を撫でると
ふわふわとした耳を擦り付けるようにすり寄ってくる。
自分がいじめたような罪悪感に溜め息を吐いた。
「…悪いのはおチビさんだよ」
言っておくけど、と呟くと赤くなった目を向けて小さく首を傾げる。
ぼんやりテーブルの上に視線を這わせると、瓶に入っているジャムが目に入った。
蓋を開けて指で掬い取って、口元に近づける。
躊躇いながら指先を舐めて、にこり、と嬉しそうに笑った。
単純な猫だ。
がじがじと指ごと噛み付かれながら、名前は何にしよう、なんて考えている自分に呆れて
半ば八つ当たり気味におチビさんをキツく抱き締めた。
時間よ戻りたまえ!私がメイントップにいたあの頃へ!
脳内設定ではおチビさんは合成獣で牢屋から脱走したらしいです。
ちなみに「5歳くらいの外見」なんてありますが
身長が5歳くらいの子どもに縮んでいるおチビさんです。
猫だから縮小した。
そんな必要ないかもしれないけど(笑)