しあわせ、と不意にエンヴィーが呟いた。


淫雨のせいで外に出れないから、図書館に行くことすら億劫で部屋に閉じ篭っていると
珍しくエンヴィーが傘なんて持ってやってきた。
濡れると部屋に入れて貰えないことを学習したらしい。

それが数十分前のことで、それからはアルに頼んで温かいココアを持ってきてもらった。
ふたり分、なんて言ったら怪しまれるからひとつのコップで半分こ。
それからココアと一緒に持ってきてくれたお菓子を食べたり、他愛無い話をしていると。

不意にエンヴィーが幸せだなんて呟いたから、オレはきょとんとしながら
残りのココアを一気に口に含んだ。
飲み込んでから首を傾げて、なにが、と返す。
分かんない?とちょっと残念そうに笑ったエンヴィーに頷いた。


「おチビさんとこうやってお話できるのが幸せだなって」
「ふうん?」
「オレはいっつも思ってるけど、おチビさんは思ってくれないの?」
「うん、別に」


即答すると、酷い、なんて苦笑しながら言った。
そんなのいつものことだからお互い気にしないけれど。
最後のひとつのクッキーを半分に割りながら、今更おかしくなって吹き出してしまった。


「お前もそんな些細なことで幸せだって思うんだな?」
「そりゃそうだよ、もちろん」


くすくす笑いながら、手渡した片方のクッキーを齧って首を傾げる。
最近気付いたけど、エンヴィーは首を傾げるような仕草が多い。


「人間はあれが食べたいとかこれが欲しいとか、欲が尽きないよね」
「まぁたしかに、な」
「オレはおチビさんと一緒にいられるだけで十分なのに」
「あっそう」


恥ずかしいことをなんでもないように言うから、いつも不意打ちされてばかりだ。
赤くなった顔を隠すようにベットに寝転がる。
こいつと話していると眠くなってきた。


「でも良かった。幸せだって思うことがひとつでもあって」
「…それは普通あるんじゃないか?」
「ううん、無かったよ。いままで感じたことなかったし」


だから十分、と寝転がっているオレの横に座ったエンヴィーを見上げながら、ふうん、と呟いた。
なにも感じない空っぽな人生はどんなに寂しいものだろうか。
オレには想像できない。


「おチビさんはいくらでも幸せになれそうだよねー」
「そうか?」
「うん、たくさんの人に愛されて温かい場所があって」


幸せじゃん、と笑ったエンヴィーになんとなく感慨深くなってしまった。
オレは違う、と言われているようで微かに胸が痛む。
でもいつもみたいに笑って言うエンヴィーにはそんな冷たい色がなかったから、そんなつもりは無かったんだろう。


「…お前にだってあるよ」
「ん?」
「幸せになる権利」


ぽつりと呟くと、きょとんとしていたエンヴィーがふわりと微笑む。
おチビさんは優しいね、と髪を撫でられて思わず恥ずかしさに視線を逸らした。


「でもね、オレには無いんだそんな権利」
「…」
「いままでたくさん酷いことしてきたんだから。おチビさんが知らないこともいっぱい」


ちょっとだけ自嘲するような、悲哀の色が混ざった微笑みをぼんやり見上げる。
そんなことを言うのは初めて聞いたから、こちらまで困惑してじっと見入ってしまった。


「こうやっておチビさんに会うことだって本当はいけないんだよ?」
「…うん」


たしかに敵同士で、こんな風に馴れ合うなんて駄目なんだ。
隣の部屋にはアルがいるのに、こうして敵と話したり触れ合ったりしている。
駄目だと分かっているけれど、とそっと目を伏せた。
やっぱりオレはばかだ、と心の中で呟く。


「だから幸せになる権利なんて、オレにはないんだ」
「…あるよ、お前にだって」
「ホムンクルスでもあるの?」
「誰にだって、幸せになる権利はある」


何と言っていいか分からなくて、ただ感情を押し付けるようにそう言った。
誰にだって、と言いながら自分でもその証拠が分からないし、証明だってできない。
たぶんそれはエンヴィーも分かっている。
ただの綺麗事だと思うけれど。
でもそんな風に悲しそうに言うのは止めてほしかった。


「…そっか、オレにもちゃんとあるんだね」
「…」
「うん、よかった。ありがとう」


本当はそんなこと思ってもないんだろうけど、そう優しく言ってから
寝転がっているオレの髪を撫でてじっと見下ろしてきた。
冷たい指先がくすぐるように触れてくる。


「じゃあ、オレの幸せになる権利を全部おチビさんにあげる」
「…」
「無いに等しいくらいほとんど持ってないかもしれないけれど、自己満足でいいから」


君が幸せならそれでいい、と笑って言って。
眩しいくらい綺麗な笑顔に目を細めた。


「…いらねぇよ、そんなもの」
「ふふ、そう」


気にしてないようにエンヴィーが笑って、隣にごろりと寝転がった。
視野の隅に散らばる黒い髪をじっと見つめてからそっと目を伏せる。


エンヴィーの幸せがオレに会えることだって言うなら、そんな幸せになる権利はいらない。

だって全部貰ったら、もう二度と会えなくなるのに。

















































戻るのか!よしきた!



エンヴィー大好きだよエンヴィー

幸せにおなり

ほとんど有害。

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kuru+kuru | Gamin