ぱらぱら、と本のページを捲る指先をじっと見ながら、
時々金色の髪を撫でたり掴んだりして弄ぶ。

文献の字を追う金色の瞳は真剣で、こちらに気付いているのかどうかも分からない。
こうして本を読んでいたら、他の事は一切受け入れようとしない。
というより、眼中にない。


話しかけても無駄だ、ということは十分分かっているからベットに並んで座っているけど、
少し久しぶりに会うからこうやって髪を触って顔を見れるだけでも十分だった。

あまり睡眠の邪魔にならないように、早めに帰ろうかな、とぼんやり思いながら
風呂上りなのか珍しく髪を下ろしているおチビさんを見つめる。

じっと文献を見つめている瞳に、ふと昔見た金色が重なった。




おチビさんは忘れているんだろうけど、実は最初に会ったのは第五研究所じゃない。
具体的に言えば、まだおチビさんが小さかった頃。
多分、おかあさんを練成してすぐのことだと思う。


なにもない田舎でぶらぶらと散歩をしていると、大きな鎧が車椅子を押して家から出てきた。
その椅子に座っている金髪の子には右手と左足が無くて、少し衝撃を受けたのを覚えている。

鎧が少しだけその子に話しかけた。
ここからじゃ声は聞こえなかったけど、車椅子の子の口は動いていなかったから
返事をしなかったんだろうし、振り向いたり頷いたりする動きもなかった。

そのまま少し車椅子の子を見下ろしていた鎧は、
心配そうに振り返りながら家の中に戻っていく。
外に出させてあげよう、と配慮したのかもしれない。


試しにその子に近付いても、見上げてくるどころか
じっと俯いたままで動こうとしない。
しんでるのかな、と思ったけど小さな身体は呼吸の度に微かに動いていた。


「…こんにちは」
「…」
「おーい」
「…」
「喋れないの?」
「…」
「もしもーし」


俯いたままでこちらに目を向けようとしないその子に肩を竦める。
面白くない、と溜め息を吐いてさっさと離れようかと思ったけれど、
こちらを見ようとしないのなら少しでもなにか反応させてやろう、なんて暇潰しにそんなことを思った。


「…ねぇ」
「…」
「ちょっとでいいからさ、顔見せてよ」


そう言ったって顔を向けてくることは無かったから、こちらからしゃがんで覗き込んでみた。
髪と同じくらい眩しい金色の瞳がある。
でも光が点っていない。まるで死んだような、暗い色だった。


絶望に打ち拉がれたようなその顔に、少しイライラする。
自分が誰よりも不幸だ、と思っているのだろうか。

首を傾げてじっと見つめても、相変わらずこちらを見ようとしない。
なにも見えていない、というより見ようとしていないのかもしれない。


「…酷い顔。可愛いのが台無しだよ?」
「…」
「ねぇ、なにか喋ったら?」
「…」


一向に反応を示さないそれに、どうしようかな、と
ぼんやり思いながらがしがしと頭を撫でてみた。
温かいのに、生きているとは思えないほど反応が無い。


「…いまの鎧誰?お父さん?」
「…」
「お母さんはいないの?」
「…、」


ぴくり、と途端に指先が麻痺したみたいに震えた。
おや、と思って覗き込むと、なにかに怯えるようにその目が歪んでいる。
それからようやく、ゆるゆると視線がこちらに向けられた。
泣き出しそうなそれに、もしかしてなにかあったのかも、と なんとなく察して少しだけ戸惑う。


「…泣かないでよ」
「…」
「よく分かんないけどさ、元気出して」


もう一度頭を撫でてやってから、その辺にあった小さな花を千切って握らせた。
のろのろと、遅れてそれを目で追う。
ただ無表情でじっと見つめるだけで、微笑んだりはしなかった。


「ちゃんと立ち上がって、前見て歩いてよ?」
「…」
「君が強くなったら、また会ってあげる」


なんとなくそう言ってから、立ち上がってその場を離れた。
途中で振り返ってみれば、金色の子はぼんやりとこちらを見つめている。
手を振ってみれば、花を掴んだ左手がぴくりと動いたように見えた。



しばらくすれば、またあの鎧が金色の子を迎えに家から出てきた。
なにか話しかけるように屈んでから、握っている花に気付いたようで不思議そうに首を傾げている。


正直、また会おう、なんて言ったのはただの気紛れだった。
本当に会えるとは思っていなかったから、少し驚いたけど。

光を失っていたはずの金色に焔が宿っているのを見て、
あぁ、誰かが立ち上がらせてくれたんだな、とぼんやり思った。






いまでもその瞳には強い光が宿っている。
真っ直ぐ前を見つめる強い瞳は大好きだけど、焔を点けて立ち上がらせたのが
自分じゃないということが少し悔しい。
きっとあの時僕がなにを言おうと、自分にはこの子を
立ち上がらせることなんてできなかったんだから。


ぼんやり白いシーツを見下ろしてそんなことを思っていると、
不意に髪を引っ張られて無理矢理俯いていたのを上向かされる。
びっくりしたせいで間抜けな声が漏れたかもしれない。


「おい、なにぼーっとしてんだよ」
「あれ…本読んでたんじゃないの?」
「とっくに読み終わったっつーの」


なんて言いながら本をベットの上に無造作に置いた。
途中で栞が挟んであるから、たぶん全部は読みきってないんだろうけど。
話ができるなら、これ以上嬉しいことはない。


「…お前が大人しいなんて珍しいな。気持ち悪い」
「うん、ちょっと考え事」
「ふーん?」


それも珍しい、と言いたそうにじっとこちらを見てから欠伸をして、のそりとベットに潜り込んだ。
おチビさんが寝るんだったら帰ろうかな、と思ってそれを見ていると、
ほんの少し、端っこに寄ってから寝転がって。
ちょっと照れ臭そうにこちらを睨み上げてから、帰るか寝るかどっちかにしろ、と言われた。


少し考えてから布団に潜り込んで、間近で金色の瞳を見つめる。
宿っていた焔が、和んだように少し揺らいだ。






































メイントップはこっちだぞ鋼の



ふたりで寝るってことが多い。
たぶん好きなんだと思う。

添い寝萌え。


ていうよりおチビさんは隣にエンヴィーがいるせいで
集中して本が読めてないんだぜ!


ほとんど有害。

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kuru+kuru | Gamin