周りには何十人、何百人という人間が行き交っているというのに
オレが異常な存在だと気付く者は誰一人いない。
すれ違った人の数でさえ数え切れないのに、こちらを好奇な目付きで見た者もいない。
なにがそんなに忙しいのか、早足でさっさと追い抜いては人の間をすり抜けて遠くへ行ってしまう。

つまらない、と思った。
こんなにもこの人混みに溶け込んでいるというのに、ただ自分ひとりだけが切り離された感覚。


そんなことを思いながら、やっぱりセントラルって賑やかだなぁ、と暇潰しにひとりでぶらぶらと歩く。
ふとこちらに向けられる視線に気付いてそっちの方を見てみると
2人の女が道の隅に立ってこちらを見ていた。
その視線はいわゆる秋波というやつだったけれど、興味がなかったから
鼻で笑ってそっぽを向いてやる。


向けて欲しいのはそんな視線じゃなくて、オレがホムンクルスだと気付いて
恐怖に歪みながらも好奇心にかられて見つめてくるなんともいえないあの視線。
まぁ気付いてくれるような勘の良い子はいないだろうし、と時々向けられる視線は完全に無視で
さっさと人が邪魔臭い大通りを出ようと足を速めた。


途中、ひとつだけ違う視線が向けられたのに気付いて振り返る。
ぱたぱた、と足音が近付いてきて、金色の髪が太陽の光を反射しながら駆け寄ってきた。
かわいい、とひっそりと微笑む間にすぐ側までやってきて、少しだけ乱れた呼吸を整えながら見上げてくる。


「お前、またこんな真っ昼間から」
「あはは、追い掛けて来てくれたってことは一緒に遊びたいの?」
「な…、んなわけないだろ!」


かぁ、と顔を赤くしながらそっぽを向いたおチビさんの動きに合わせて、ふわりと髪が揺れる。
素直じゃないなぁ、とくすくす笑いながら、あっさりとおチビさんから離れてみた。


「なーんだ、追い掛けてくれたんだと思ったのに。じゃあまたね」
「あ、」


言うと慌てたみたいにこちらを見て、なにか言いたそうに見つめてきた。
捨てられた子犬みたいな表情に、顔が綻びながらもあっさりと前を向いて歩く。
すると足音がまた近付いて、ぐい、と手首を引っ張られた。


「…なに?」
「お、お前暇じゃないのかよ」
「うん、暇だけど」
「じゃあオレが、遊んでやる」


ちょっと俯いて、全然素直じゃないことをだんだん小声になりながら言った。
かわいい、とやっぱり思いながら掴んできた手をさり気なく握り返す。


「うん。じゃあ遊んで?」
「お、おう」


頷いて、なんだかぎこちない動きで歩き始めた。
手を繋いでいることには気付いているらしく、ちらちらと見ているけれど
完全に振り解くタイミングを失っている。
そろそろ慣れてくれたらいいのに。


「弟くんは?」
「あ、宿で留守番。たまには生き抜きしてこいって言われた」
「ふうん、そっか」


沈黙ばっかり続くから、見当たらない鎧の姿を不思議に思って聞いてみると、慌てたみたいに顔を上げて言う。
別に気まずいなんて思ってないけど、おチビさんの方はなにを話そう、ということで頭がいっぱいみたいだった。
なんだか緊張しているみたいで可愛いけど。


「お腹空いてない?」
「あ、さっきちょっと食べた。お前が店の前通ったから慌てて出たけど」


とりあえずリラックスしてほしくて、なにか食べたら和むかな、ときょろきょろ店を見渡す。
このへんは似たようなレストランばっかりだから、同じような店に連れ込んでもつまらないだろうし。
なにがいいかな、と見渡していると道の隅にアイスクリーム販売車が止まっているのが目に入った。


「アイスは?暑いしいいんじゃないの?」
「あ、うん」


甘いものは好きみたいだから、頷いてじっとピンク色の車を見つめている。
大人びているところもあるけれど、やっぱり子どもだな、と思わず顔が綻びながら見下ろした。


何十種類という鮮やかな色のアイスクリームを見比べて、迷っているのか唸ってばかりで注文しない。
ピンクと紫の混ざった、コットンキャンディなんて味のものをじっと見ているかと思えば
さくらんぼの入ったさくらんぼ味のアイスなんてのも見たり。
子どもみたいに楽しそうに見て、後から来た女よりもずっと長く悩んでいる。


ようやくラズベリーとホワイトチョコレートの混ざった
ラブポーションなんて変わった名前のアイスを買ったと思えば、
じっとこちらを見上げて首を傾げてくる。
なぁに、と笑いかけるとなんだか少しだけ不機嫌そうに顔をしかめた。


「お前は買わないのかよ?」
「ん?別にいらないけど」
「お前も食べたらいいのに」


たしかに甘い物は好きだけれど、人間の嗜好品にはあまり興味無い。
嬉しそうに笑ったり、美味しそうに食べているおチビさんの姿を見るほうが
正直何倍も楽しかったりするから欲しいとは思わない。


「ほら、お前も買えって」
「あー、うん」


おチビさんの中では、オレは甘い物好きというレッテルが貼られているらしい。
別にいらないけどなぁ、とぼんやり思いながら適当にチョコレートミントを注文した。
それを見ておチビさんが満足そうに頷く。


「…行きたいところある?」
「オレは別にないけど。セントラルなんて何回も来てるし」


アイスに夢中で視線すら向けずに返事をしたおチビさんをぼんやり見下ろした。
かわいい、と本日何度目かの呟きに、何か言ったか、と首を傾げて見上げてくる。
ふとおチビさんの視線がこちらの手元に向けられた。


「あ、お前アイス溶けるぞ」
「あぁ、うん」


まだ一口も食べていないアイスに気付いて、それをちょっとだけ舐める。
それだけで後はずっとおチビさんを見下ろして、何度もかわいい、と呟きながら眺めた。


こうして楽しそうにしている姿を見ると、いつも変な衝動が湧き上がってくる。
ぼんやり見下ろしながら、悪戯心を必死に抑えようと軽く息を吐いた。
頭から齧って食べてみたい。きっと今は甘い味がすると思う。


「…だからアイス溶けるってば」
「あ、うん」
「なんだよ人のことばっかり見て」
「うん、別に」


いじめたい、なんて思っているとは気付いていないおチビさんは
不思議そうに首を傾げた後、あぁ、となにか納得したように呟いた。


「もしかしてこっちも食べてみたいとか?」
「え?いやべつに、」
「ほら、あーん」


無邪気な子どもみたいな笑顔にくらりとする。
だめだ、と思いながら必死に耐えて、桃色のアイスを一口齧った。
なんだか酷く美味しい気がする。

お礼にチョコレートミントも食べさせてあげてから、逃げ出したいなぁ、とぼんやり前だけを見て歩いた。
このまま一緒にいたら何をしてしまうか分からない。
うっかり本当に齧っちゃったりして、と苦笑すると隣でばりばりとワッフルコーンを齧る音がした。
はっとして見たら、溶けたチョコミントが手に付いている。


「お前まだ残ってんのかよ?」
「…食べる?もういらない」
「あれ、いいのか?」
「うん」


どうせだったら美味しそうに食べているおチビさんが見たくて、
溶けて表面がどろどろになったそれを手渡す。
嬉しそうに受け取ってから食べ始めたのを見て、手に付いたアイスを舐め上げると
なんだかおチビさんが赤面してぱっと顔を逸らした。


「…どしたの」
「なんかお前、そういうのエロい」
「え?なにそれ」


苦笑しながらさっさと前を歩いていった背中を見つめる。
途端にぞわりと膨れ上がった衝動に一瞬立ち止まった。
寸前でその衝動を押さえ込む。

あぶなかった、とほっと息を吐いていると、早くこっち来いよ、と振り向いた金髪が首を傾げる。
うん、と微笑んで駆け寄ってから並んで歩いた。

可愛いなぁ、食べちゃいたい虐めたい。
その強い金色の瞳を恐怖で歪ませてみたい。

ぼんやりそんなことをくり返し思いながら、おチビさんをじっと見下ろす。
そんなに無防備にならないでほしい。
いつ何をしてしまうか本当に分からないんだから、とほとんど無意識に舌舐めずりをした。


じっと黙ったままのこちらを不思議そうに見上げて、どうした、と首を傾げてくる。
なんでもないよ、と微笑みながら今日も大人しいふりをしておいてあげた。

このままじゃ変になりそう、と我慢する変わりに頬にキスをしてやったら
思った通り顔を真っ赤にして怒声を浴びせてくる。

やっぱり狂いそうだ、と思った。



















































お疲れ様でした。メイントップはこちらです。



狂いそうだ。
くるーいそーだ。
くりーむそーだ。

なんていう爆竹妄想



にこにこしてるけど腹の底ではとんでもないこと思ってたりするエンヴィーが好き
仕草がさり気無く色気たっぷりなエンヴィーが好き



私がアイス食べたいというオーラがかなり滲み出ている小説。
というかアイス小説。
フレーバーはサー○ィーワンからですありがとうございました。


ほとんど有害。

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