「あ。そういえば今日って」
「なに?兄さん」
「ん、なんでもない」


不意に読んでいた文献から目を離して呟くと、アルフォンスが首を傾げる。
なんでもないってば、と苦笑しながら背伸びをして栞を挟んで、
ベットの上に放り投げたままだったコートを羽織りながら部屋を出る。


「じゃちょっと息抜きに外行って来るな」
「え?う、うん」


普段一度文献を読んだらずっと読み続けるし、食事を忘れたり夜更かしすることもある。
自分から休憩なんて珍しいね、とアルフォンスも文献を置いて後ろからついてきた。


「サンドイッチとか作ろうか?持って行きなよ」
「いいよ。外で食べてくる」
「ふーん…?」


それも珍しい、とやっぱりアルフォンスが首を傾げた。
いつもこうだったらいいのにな、とわざとらしく言われて苦笑する。
そんなに普段不健康な生活をしているだろうか。


「じゃあ行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃーい」


手を振ったアルフォンスが「僕もそろそろ息抜きしようかな」と呟いたのを聞きながら、
賑やかなセントラルの街へと歩いて行った。




















この辺かな、ときょろきょろ見渡しながら入り込んだのは暗い路地裏。
人目にもつかないここなら、と壁にもたれてみた。

するとやっぱり、とん、と軽い音が少し遠くから聞こえて視線を向けると、にっこり笑う見慣れたホムンクルスを発見。
大体オレがこういう場所や目立たないところに行くとちょっかいを出しにやってくる。
いつも偵察しながら、隙有らば構ってもらおうとしているらしい。


「どしたの?珍しいねー」
「よし、一緒に昼飯食うぞ」
「…は?」
「もちろん奢ってくれるんだよな」
「…珍しく外に出たと思ったら」


なにそれ、と首を傾げたエンヴィーをぐいぐい引っ張って路地裏から出る。
出る寸前にばちばち、と音を立てて姿を変えているのを横目で見た。
姿、というよりも服装。普通の人間と変わらない格好になって、よし、と頷いている。


「で、どういう風の吹き回し?」
「腹減っただけだ。行くぞ」


また腕を引っ張ってやろうとしたら、今度はさり気なく繋いだ手を引いてきた。
こういう女相手にするような態度がむかつくけれど、今は我慢。


「…なーエンヴィー」
「ん?」
「今日何の日か知ってるか?」
「さぁ?誰かの誕生日?」


適当な返事に、こっそりとガッツポーズを取る。
こいつはイベントとかそういうのには興味が無いし詳しくないから良かった。

まぁ今日はエイプリルフールという嘘を吐いてもいいですよっていう日だ。
そんなことこいつが知っているわけもないだろう、とにやりと笑ってやる。
どんな嘘を吐いてやろうか、虎視眈々と狙っているわけだ。


「どこ行く?」
「適当でいいぞ。もうそこのレストランでいい」


とりあえずそれなりの雰囲気があれば、なにか嘘を吐いても引っかかるだろう。
割と腹も減ってるし、と指差した近くのレストランへ向かった。
客も結構いるし、評判は悪く無さそう。

向かい合って適当に座った席で、ぼうっとメニューを見つめる。
なにがいいんだろ、とそれを見ているとウエイトレスへ「チョコレートパフェください」なんて真顔で言う男がひとり。
くすくすと笑ったウエイトレスにこっちが恥ずかしくなった。


「ちょ、お前ばか」
「ん?なにが。それでおチビさんはなにするの?」
「あ、えっと…う」


特にこれが良いな、と思うものも無かったし、結構迷ったから同じように呟いた。


「…えっと、チョコレートパフェ」


もっとメニューを見て真剣に決めればよかった、と本気で後悔した。
なんでこんな、とぶつぶつ言いながら水を置いて離れたウエイトレスの小さな笑い声にもっと恥ずかしくなる。
そんなに空腹だったわけじゃないし量は丁度良いくらいだろうけど、デザートを食べに来たわけじゃない。

ぼうっと店内を見渡すエンヴィーを見ていると、ふと視線が絡んでにっこり笑われた。
はっとして視線を逸らすとやっぱり押し殺したような笑い声が聞こえて睨み付ける。


「なんで笑うんだよ」
「珍しくデートのお誘いがあったからさ、どうしたかなって」
「デートじゃない。暇だっただけだ」
「本読んでたのに?」
「…休憩だ」


やっぱり偵察されてたんだな、とぼんやり思いながら見つめ返した。
こういう何気無いことが、そういえば敵同士なんだっけ、と思い出させられる。
そんなの気にしてないように一緒に食事をしているエンヴィーもおかしいけど、オレもやっぱりおかしいな、と今更ながらに気付いた。

ふと向けた視線の先に、母親と一緒に楽しそうに食事をしている子供が目に入った。
きゃあきゃあとお子様ランチの旗を持つ姿に、自然と顔が綻ぶ。
ふうん、と呟く声がして見れば、エンヴィーも同じようにその子供を見ていた。


「子供って煩いし邪魔だしオレには分かんないけど、おチビさんはけっこー好きだったりする?」
「…べつにそういうのじゃないけど」


ただなんとなく母さんとアルフォンスと3人で一度レストランに行ったのを思い出していた。
小さなハンバーグとかフライドポテトとか、デザートのプリンに喜んだのを覚えている。


「なんか、懐かしい感じがして」
「…ふうん」


やっぱり興味無いみたいに呟いたエンヴィーが、運ばれてきたチョコレートパフェに視線を向ける。
美味しそう、とにっこり笑った姿に苦笑した。
お前も子供みたいなものじゃん、と器から落ちてしまいそうなアイスの横のチョコケーキをそっとフォークでつつく。
慣れたみたいに絶妙なバランスで飾られたバナナやウエハースを食べていくエンヴィーをぼうっと見ながらアイスを口に入れた。
甘いものは嫌いじゃない。


「おいしーね」
「…ん」


まぁたまには悪くないか、と頷くと有り得ないような穏やかな空気が流れているのに気付いてちょっとだけ恥ずかしくなった。
本当にデートみたいだ、と思うとさっさとここから出たくなる。

アイスや白玉を頬張っていると、こちらを見てくすくす笑ったエンヴィーが手を伸ばしてきた。
なに、と首を傾げるのと唇の端っこを指で拭うように撫でられたのは同時。


「チョコソース付いてた」
「ふ、普通に言えばいいだろ!」
「ん?別にいいかなぁって」


言いながらそれをぺろりと舐められて、恥ずかしくて俯く。
なんか、本当に傍から見たらカップルみたいなものだ。

慌ててチョコソースにまみれた白玉やコーンフレークを口に入れて、ナプキンで口を拭いた。
これ以上からかわれたら堪ったもんじゃない。


「んぐ…ごちそうさま」
「ん、じゃあ出ようか」
「お前の奢りだぞ。いいな」
「はいはい」


さっさと席を立ったエンヴィーがカウンターへと向かう。
その後ろを追いかける途中ではっとした。
おいおい、オレなんのためにここに来たんだ。
嘘吐いて騙して、今日はエイプリルフールなんだぞって教えるんじゃなかったか?


「あーちくしょう!してやられた!」
「なにが?」


きょとんとするエンヴィーに手を取られながら店を出る。
それなりに良い雰囲気になってた、し…「好きだ」とか言って驚かせようと思ってたのに台無しだ。
予定が狂ったなどうするか、とぶつぶつ呟いていると、エンヴィーがにっこり笑いながら屈んでくる。


「ありがとおチビさん、楽しかったよ」
「へ…う、うん」
「またいつか一緒に行こうね」


純粋にそう微笑まれて、頷くことしかできなかった。
なんか、素直に楽しんでくれてるのに嘘吐くってのも可哀相かもな、とぼんやり思いながら俯く。


「しばらくセントラルから離れるからさ、会えなくなるんだよね」
「…え」


はっとして顔を上げると、慌てたように笑ったエンヴィーが頭を撫でてくる。


「でも2ヶ月くらいだよ。早くて1ヶ月で会えるようになるからさ」
「…」
「ずっと会えなくなる前に遊べて楽しかった」


そっか、と俯くとエンヴィーはにっこり笑う。
それならなんだかんだで良かったかも、と思っているとエンヴィーが顔を覗き込んでくる。


「寂しい?」
「な、なわけねぇだろ!」
「そう?残念」


けらけら笑われたけど、本当は、ちょっとだけ、ほんのちょっと寂しい。
普段よく会うけれど、ぱったりと1ヶ月会えなくなることもあったから。
ぼうっと俯いていると、時計台を見たエンヴィーが「そろそろかな」と呟く。


「弟くん心配するんじゃない?休憩終わり」
「あ、あぁ」
「じゃあまた…いつか、ね。ばいばい」


ちょっと考えたみたいに言ったエンヴィーに、本当に次いつ会えるか分かんないんだな、とぼんやり思って。
さっさと離れていく背中をぼうっと見ていると、くるりと振り返ったエンヴィーがにっこりと笑ってきた。


「そういえばオレになんか言うんじゃなかったのー?」
「ん…なにがだよ?」
「今日は嘘の日じゃん」
「…え、」


なんで知ってんだ、とびっくりしていると、へらへら笑われる。
バレてたということだ。オレの嘘を吐こうという下心は最初から。
また遊ばれたのか、オレは。

よく考えれば、なんだかんだでクリスマスとかバレンタインとかも知ってたし。
世界が賑わうイベントでなくても、なんとなく知ってる、というのは有り得たのだ。


「ちなみに今のセントラル離れるってのは嘘だよー」
「な、なんだと!?」
「あはは、寂しそうにしてたから可愛かったなー」
「そこ動くなてめぇ!ぶっ飛ばしてやる!」


叫んで追いかけて、さっさと近くの建物の屋上へ飛び上がったエンヴィーを睨み上げる。
とくに人も多くなかったから、騒ぎにはならなくて良かった。


「今日遊びに行くからね」
「二度と来るな馬鹿!」


手を振ってあっさり姿の見えなくなったエンヴィーに叫んだ。
結局今日もしてやられて終わりだ。
あぁもう、とがしがし頭を掻きながら、バレンタインは仕返しに唐辛子を仕込んだチョコレートでも、とひっそり思った。













































おチビとトップへ逃避行!




鈴音しゃんに嘘吐かれてはっとして書いた。
時計を見ると2時間掛かってた。

こんなものに…2時間…??orz


密かにバレンタインにチョコを渡す気満々なおチビさんでした(違う)


ほとんど有害。

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kuru+kuru | Gamin