泊まっている宿の、自分の部屋に入ったとき。
見慣れない人影があれば誰だってびっくりして声を漏らす。

ひ、という短い悲鳴を上げて、借りてきたばかりの本を取り落としそうになりながら、顔をしかめてじっと見つめてみた。
人のベットに丸くなって寝ている黒髪に、変な脱力感を感じて溜め息を吐く。
なんでお前がこんな時間からいるんだ、と机に本を置きながらぼんやり見つめた。
すー、という寝息にがくりと肩を落とす。
ちょっと出掛けている間に侵入したらしい。

ていうかホムンクルスって睡眠を取ることあるか?
そこまで思って、馬鹿らしい、と椅子に座って本を広げる。
前もこんなことがあったぞ、確か。
ホムンクルスも寝るんだなぁ、と探究心に火が付いてうっかり近寄れば、ぐい、と腕を引っ張られて大変なことになったな。
寝ているフリはもう通用しない。

まぁ放っておけばなにもされないし、そのうち飽きて起き上がるだろう。
ぼんやり思いながら、広げた本へ視線を向ける。
周りの音をすべて遮断して入り込む、この世界がすごく心地良い。
眠るときのような、意識がゆっくりと沈む感じ。

視覚も聴覚も、完全に本にしか向いていない、はずなのに。
すぅ、と聞こえた寝息になにもかも現実に引き戻されて、あぁくそ、と舌打ちをする。
イラついて振り返ると、こちらに背を向けて丸くなっている姿が見えた。


「…おい」
「…」
「まじで寝てんのか?」


声を掛けても返事は無くて、代わりに微かな寝息が聞こえる。
まじかよ、とじっと見つめてもやっぱり反応は返ってこない。

いや、絶対起きてるぞこいつ。
ホムンクルスが無防備に寝るわけがない、と勝手に判断してまた本へ意識を集中させた。
なのに聞こえてくる寝息と、あいつが後ろにいる、ということに対して高まった警戒心で全く本を読むことができない。
大好きな静寂の世界に飛び込めない。

もうこうなったら無理矢理追い出してやる、と椅子から降りてのしのし歩み寄った。


「おい、いい加減に…」


ぐい、と引っ張った腕がだらりと力無く揺れる。
あれ、と思った。
てっきり掴み掛かってくると思ったのに。
それでも蹴飛ばして窓から突き落とせばいいか、と思ったのに。
ちょっと毒気を抜かれた。


「…寝るんだ」


お前でも、と呟きながら掴んでいた手を離せば、ぱたり、とシーツに落ちた。
ふうん、と顔を覗き込むと、見たことのないくらい子供みたいな寝顔にちょっとびっくりする。
一応敵同士だろ。寝てる間に一回くらいは殺されるかもしれないって普通思うものだろ。
こいつにそんな当たり前の考え方を望むのは難しいのか。

ふぅ、と溜め息なのかよく分からない息を吐きながらぼんやり見下ろす。
とりあえずこちらも警戒しなくてもいい、とは思うけど。
なんかもう本を読む気が失せた。


「…ていうかオレのベットだっつーの」


聞いてないんだろうけど、とベットに乱暴に腰掛けた。
本当に、全く起きる気配がない。
眠っているのは初めて見たけど、眠りが深いように見える。

なんとなくシーツに散らばっている髪の毛を掴んで、遠慮気味に触ってみる。
軽く引っ張ったり、引っ掻くように梳いたり。
がしがし、と頭に置いた手を乱暴に動かしてみた。
駄目だ起きないな。起きても困るけど。


「…あーなんか眠いし」


お前のせいで本読めないし。
一応あと数日でここ出るんだからそれまでに読もうとしてたんだけど。

まぁいいか、とベットの上を四つん這いで歩いて、エンヴィーの正面に回り込む。
改めて寝顔をじっと見てみた。
なんだ、ちょっとは可愛いんじゃねぇか。
黙ってたら格好良いのに、と思ったことは何回だってあるけど。


そのまま少し考えて、ごろり、と向かい合うようにして寝転んでみる。
ちょっとまだ疑ってたけど、ここまでしても掴み掛かってこないから寝ているんだろう。
うん、そうだろうなきっと。

ずりずり、と寝転がったまま近寄って、だらりと投げ出された腕の中に潜り込む。
初めて見る寝顔だし、もう見れないかもしれないし。


無防備に寝ているこいつもだけど、ホムンクルスと一緒に寝るなんてのも考えられないな。
オレもこいつに触発されているらしい。駄目だなこりゃ。


擦り寄ってから目を瞑ると、すー、という寝息が微かに聞こえる。
昼寝なんて久しぶりだし滅多にしないけど、今日はよく眠れそうな気がした。




























ぼんやり、と目を開けると、窓から入り込んだ夕日がいきなり目を直撃した。
眩しい、とカーテンを閉めたくて上半身を起こそうとしたけれど、上手く動かない。
動きにくいなぁ、と思ったら隣でおチビさんが寝ていた。
あれなんで、と必死に寝起きの頭を回転させる。

確かおチビさんが留守だったから、暇潰しにベットに寝転んで。
それから意識が無くなったんだっけ。
あぁ寝ちゃったんだ、と納得しながら頭を掻く。
でもなんでおチビさんがいるんだろ。
腕の中に潜り込んで、胸の辺りに擦り寄っている。
小動物みたいで可愛いけど。


「…無防備だなぁ」


ころしちゃうよ、なんてぽつりと呟きながら、赤いヘアゴムを取った。
それから指で撫でるように梳く。
この感触が柔らかくて温かくて好き。
金色の目もいまは見えないけど、こうして寝ているのもいいかもしれない。

ぐしゃぐしゃだった髪が綺麗に整ったのを、ひとり満足して頷く。
すぅ、という寝息と子供みたいな寝顔が可愛い。

よしよし、と撫でると小さく唸りながら擦り寄ってきた。
へら、と顔が綻んだのが自分でも分かって、ぎゅう、と抱き込んでやる。

もうちょっとならいいかな、と欠伸をしながら起こしかけた上半身をまたベットに倒した。
腕の中の温かい体温を撫でながら、ゆっくり目を瞑る。

目が覚めたらなんて言うかな。
顔を赤くして怒っているのを想像して、ちょっとだけ笑ってしまった。


















































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嫉妬の日祝い小説でした。
だからなんだって内容ですけどね。

何気無い日常と当たり前の幸せ。
エンヴィーってそういうの知らなさそうだよねー
とか妄想炸裂した数日前のこと。


あっエンヴィーの体重が普通なので
アニメ設定だと思ってください。
あと寝顔見たことないから出会って間もなくだと思います。


ほとんど有害。

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kuru+kuru | Gamin