ぐらり、と一瞬視界が霞んだ。
あれ、と思いながら体勢を整えて、首を傾げる。
「鋼の、どうした?具合でも悪いのかね」
「…いや、べつに」
具合が悪いなんて自分でも思わなかったから、へら、と笑って首を横に振る。
少しだけよろけたのに大佐も気付いたのか、心配そうに顔を覗き込んできた。
「あんまり無茶をするんじゃない」
「あぁ、セントラル出るのは明後日だし大丈夫だよ。それより文献ありがとな」
司令部にある書庫から珍しいものを引っ張り出してくれたらしく、
素直にお礼を言うとにこりと微笑まれる。
体調が悪い、なんて滅多にないから自覚は無かったけど。
今日は早いうちに戻ったほうがいいかな、とちらりと時計を見る。
「じゃ、オレ帰るから」
「あぁ、気を付けて帰りなさい」
最初は送ってやろう、と言われたけど大佐も忙しそうだったし。
大丈夫、と本当に体調は悪くなさそうだったから断っておいた。
さっさと司令部から出て宿へ向かう途中、手にした本の表紙をぼんやり眺める。
貴重だというだけあって丁寧に扱われていたんだろう。
なんだか高級そうな質感に、はやく読みたいな、とばかり思ってしまう。
「あ、兄さんお帰り。早くしないと食堂混んじゃうよ?」
「おう、すぐ行くから」
机に本を置いてから、慌てて階段を降りて食堂に向かった。
眩暈もしないし立ち眩みももうない。
ちょっと調子が悪かっただけだろうな、と頷いてから席に座ってメニューを開く。
「今日はお昼あんまり食べてないよね。ちゃんと栄養摂らなきゃ」
「ん、どれがいいと思う?」
「やっぱりお肉かなぁ。野菜も必要だからポテトサラダとかいいんじゃない?」
本に夢中なあまり食事を取るのを忘れたりもするから、メニューを見て栄養や量を考えて決めるのは大体いつもアルフォンスのほうだ。
あまりお腹が空いてない時でもアルが選んでくれる料理は楽に食べれるからいつも任せっぱなしにしている。
食欲も普通にあるし大丈夫そうだ。
それからは司令部でのことはすっかり忘れて、いつも通り夜遅くまで文献を読み耽った。
***
太陽の眩しさにぼんやり目を開けると、窓から見える太陽がいつもより高いことに気付く。
うわ寝過ぎた、と慌てて起き上がって時計を見ると、10時を少し過ぎていた。
怒られるかな、とそろりと部屋を出ると、丁度オレを起こそうとしていたのか
ばったりとアルフォンスと鉢合わせしてしまった。
「あ!兄さんやっと起きた?また遅くまで本読んでたでしょ!?」
「う、悪い…今日なんか予定あったっけ?」
「明日ここ出るから色々買い出しするつもりだったけど…兄さん大丈夫?」
「へ?なにが?」
「ちょっと顔赤いよ?熱あるんじゃない?」
「そうか?全然そう思わないけど」
ひた、と自分の頬を左手を当てたけれど、特に変化はないと思う。
首を傾げると顔を覗き込まれた。
「具合悪いなら僕だけで行くよ?」
「アルだけに任せるわけにいかないだろ。オレも行くよ」
体調が悪いという自覚は全く無いし。
寝過ぎたせいか頭が少しぼんやりするだけだ。
そう言うと少し安心したみたいに頷いて、それじゃあ仕度しないとね、と部屋に戻って行った。
さっさと着替えている間にアルフォンスが書いたのか、買い物リストを受け取ってそれを見ながら宿を出てきょろきょろと見渡す。
日用品から非常食となかなか数は多そうだった。
あっちから回るか、と角を曲がって食品売り場へ向かう。
「日曜だし人多いかもね。大丈夫かなぁ」
「大丈夫だろ。さっさと済ませて帰ろうぜ」
まだ読み終わっていない文献も気になるし、と順番に店を見て回りながら歩いた。
アルフォンスは買い出しの度に楽しそうにしているから、割とショッピングとか好きなのかもしれない。
「前に飲み物足りなくなって困っちゃったよね。水多めに買おうか」
「あぁ、あと日持ちする食べ物もあったらそれも多めにな」
「兄さんが大食いだからほんと大変だよ。あれは自業自得だったよね」
「そ、そんなことないぞ!」
「お腹空いた喉渇いたってうるさかったもん」
それはしょうがないだろ、とむくれながら歩いていると、なんだかどんどん人が増えているようだった。
丁度昼食時だし、レストランへ向かう人も多いのかもしれない。
「兄さん大丈夫?それ持ってあげるよ」
「ん、じゃあオレがそっち持つから」
水のたっぷり入ったペットボトルは重たいから、とパンや果物の入った紙袋と交換する。
よいしょ、とそれを抱えて歩きながらあちこちの店を見ていると、不意にアルフォンスが立ち止まった。
「あ、汽車の中で食べるものも買ったほうがいいかな?」
「それは明日でいいだろ?」
「でもドタバタしちゃって買いそびれるかもしれないし。ついでだから買っておこうよ」
なにがいいかな、と色々な食品を見るアルフォンスに
保護者みたいだな、と苦笑して隣に並んだ。
***
何十分か経って、荷物もだいぶ多くなってきた頃。
外食やショッピングに来た人もやっぱり多いのか、いつもよりも人が多かった。
ぶつからないように歩きながら重い紙袋を抱くのも大変で、よろよろと足取りは重くなっていく。
「兄さん平気?持ってあげようか?」
「んなこと言ってお前の方が重いだろ…」
苦笑しながら両手いっぱいに荷物を持って、もう精一杯な様子のアルフォンスを見上げる。
重い、なんて感覚はないんだろうけど、だからこそうっかり落としてしまうそうだった。
それにいまでもバランスを取るのも大変そうで。
「でも兄さん、さっきより顔赤いよ?やっぱり宿に戻ったほうがいいんじゃない?」
邪魔にならないように道の隅に立ち止まったままじっと見下ろしてくるアルフォンスに少し俯いた。
たしかに、起きてから頭がぼんやりするし、ちょっと様子が変かもしれない。
でも本当に調子が悪い、と言い切れるのかどうか自分でもよく分からなかった。
でもここでオレが帰ると言えばアルフォンスも付いて来るだろう。
両手いっぱいに荷物を持った状態じゃ買い物できないだろうし、だからといってオレに荷物を手渡しそうにもなかった。
心配性だから、こういう時はたとえ少しでもオレに負担をかけることは避けている。
二度手間だしそんなことをさせるわけにもいかない。
「大丈夫だって。そんなに心配ならさっさと買い物済ませたらいいだろ?」
「でも兄さん…」
「大丈夫だいじょうぶ」
言いながら歩き出したとき、ぐらり、と再び視界が霞んだ。
それも昨日より酷い浮遊感。
それから、宿を出てから軽い頭痛と吐き気があったことに気が付いた。
こういうのには鈍感だと昔から分かってはいたけど。
「兄さん!」
慌てて呼ぶアルフォンスの声が遠くに聞こえた。
持っていた紙袋の中身も盛大に撒き散らすんだろうな、とぼんやり思いながら目を瞑る。
こんなことなら余計に迷惑掛けるし、素直に帰ったほうがよかったかもしれない。
ごめんなアル、と心の中で呟くと、果物やパンがコンクリートの道に叩き落される音が聞こえた気がした。
***
ふ、と唐突に戻った意識に目を開けると、にいさん、と慌てたように大きな鎧が覗き込んできた。
ぼんやりそれを見てから、アル、と呟くように名前を呼ぶ。
安心したように肩で息を吐いてから、大丈夫?と顔を覗き込まれた。
「兄さん具合悪かったなら早く言ってくれたら…」
「ん…」
ごめん、と言おうとして息を吸い込むと、同時に激しい吐き気が襲ってくる。
くら、と眩暈がした。
よく天井を見れば泊まっていた宿のようで、どうやら運んでくれたらしい。
「どうする?病院行く?」
そう聞かれたけれど、注射がこわい、とふるふると首を振った。
するとアルフォンスは呆れたみたいに溜め息を吐いて、どうしよう、と首を捻る。
病院に行くのが一番なんだろうけど、無理矢理連れていけば暴れちゃうだろうし、なんてぶつぶつ呟く声に苦笑した。
「どうしようか?薬買ってくるよ?」
「ん…」
「それと、咄嗟に兄さんを庇ったから荷物全部ばら撒いちゃって…」
色々駄目にしちゃった、と苦笑する姿にごめん、と呟く。
荷物はいいけど体調悪いこと隠してたのはちゃんと謝ってね、なんていわれて。
こくりと頷くと安心したように冷たいタオルを額に乗せられた。
「うーん…薬買いたいけど兄さんも心配だし…」
「…オレは、いいから…」
「え、でも…」
「駄目にしたものも、買い直さないといけないだろ…」
苦しくて途切れながら言うと、少し迷ったみたいに俯いてから、うん、と頷いた。
どちらにしろ薬は買わないといけないんだし、オレをひとりにするのは気にしなくていい。
「じゃあ僕薬買って来るね。そうしたらすぐ戻るから」
「ん…」
「ここに水置いておくね。喉渇いたら飲むんだよ?」
こく、と返事ができなくて頷くと、静かに部屋を出て行った。
身体が熱くて、喉が渇いていたけど。でもだるくて動けそうにもない。
酷い吐き気と頭痛で、はぁ、とゆっくり息を吐きながら目を瞑った。
***
「じゃあよろしくお願いします」
「あぁ、分かったよ」
遠くでぼんやり会話が聞こえた気がして、ゆっくり目を開けた。
いつの間にか寝ていたらしくて、大きな鎧と黒いコートに目を瞬かせる。
「…アル…?」
「あ、兄さん起きた?薬買ってきたよ」
「…?」
ぼんやり見ていると、こちらを振り向いた黒髪がにこりと微笑んだ。
青い軍服が見えて、あれ、と呟くとアルフォンスが机に薬や果物の入った紙袋を置きながら黒髪の男に視線を向ける。
「大佐に偶然会って兄さんのこと話したら、面倒見てくれるって」
「…なん、で」
「アルフォンスはこれからまた買い直ししなければいけないみたいだからな」
オレやアルフォンスが道にばら撒いた、買い出ししたもののことを言っているらしい。
駄目にしたものを買い直さないと、とアルフォンスが言っていたのを思い出す。
「…そんなの、今日じゃなくても…」
「君だって一日でも早くここを出たいのだろう?」
「…」
「すみません大佐、それじゃあ兄さんのことお願いします」
「あぁ、任せたまえ」
にこりと微笑んだロイに、茫然として部屋を出て行くアルフォンスを見送った。
静かになった部屋で、さて、とロイが息を吐く。
「調子が悪いのを隠していたそうだな」
「…それは、ただ気付かなかっただけで…」
「あぁ、無事でよかったよ」
呆れたように苦笑したロイをぼんやり見上げる。
あれ、と思った。
なんだか瞳の色に違和感がある。
黒い色の奥深くに、微かに見慣れたような色が。
「…おまえ、」
「あはは、分かった?意外と気付くの早かったね」
聞きなれた声に、やっぱり、と辟易として目を伏せる。
バチバチ、という音と同時に放たれる閃光が眩しかった。
「本当に大佐がおチビさんの看病なんてしたらころしちゃうけどね」
「…ばかなこと、いうな」
余計に具合悪くなりそう、と早くアルフォンスが帰ってくることをひっそり願った。
***
どのくらいで帰ってくるかな、とぼんやり窓の外を見ていると、がさがさと紙袋から薬や果物を取り出す音が聞こえた。
看病なんてこいつができるわけがない。
どうせ誰か来るんだったら大佐のほうが良かった。
「ほんとにどしたの?風邪?」
「…」
「熱もあるみたいだし。何したのさ」
ぺたり、と額に冷たい手が宛がわれる。
気持ち良くてぼんやり目を細めると、眺めるように見下ろした後机の上のコップに気付いたのか
それを取って上半身を抱き起こしてきた。
「飲める?なにか食べなきゃ薬も飲めないし」
「…、」
返事を言おうとしても、ひりひりとした喉と吐き気に掠れたように空気が出ただけだった。
すごく喉が渇いているから、返事の変わりに素直に見上げると首を傾げられる。
「なんか大人しいし素直だし可愛い」
「…へんなこと、言うな」
呆れてそう呟くと、唇にガラスのコップを軽く押し付けられて。
それを傾けて、氷の入った冷たい水をゆっくり流し込んでくる。
飲み込むと、酷く痛む喉が潤されて心地良かった。
「珍しいね、病気なんて」
「…」
「ほんっと人間って弱いんだから」
脆弱、と呆れたみたいに言われて見上げると、はぁ、と息を吐かれる。
アルにもこいつにも心配掛けたのは、たしかに申し訳ないけど。
「なに食べる?色々買ってきてくれてるけど」
「…らない」
「ん?」
「いらない」
食べれない、と簡潔に言ってから体重を全部エンヴィーに預けた。
だるくて動けないし、身体を支える力もない。
困ったみたいに顔を覗き込んで、汗で張り付いた髪を払われる。
「でも食べなきゃ薬飲めないよ」
「…」
こいつが正論を言うのが意外で、無理矢理なにか口に突っ込まれるかと思ったけど。
ゆっくりでいいから食べなよ、と優しく背中を撫でられて少し困惑した。
***
こいつが作ってくれたお粥も結局食べれなくて、ほとんど残したまま机の上に置かれた。
なんだか申し訳なくて無理にでも食べようとしたら、それが分かったのか苦笑して
「無理しなくていいよ」とふわふわ髪を撫でられる。
結局レモネードを少し飲んでから、摩り下ろしてくれた林檎を一口ずつ食べているわけで。
子どもみたいで恥ずかしいけど、自分じゃ食べれそうになかった。
だからといって食べなかったらアルにも心配させてしまう。
「美味しい?」
「…うん」
吐き気でほとんど味わえずに飲み込んでいるけど、お粥よりもずっと食べやすい。
口元にスプーンで持ってこられるそれを素直に食べていると、肩を揺らしてくすくすと笑い始めた。
「…なに」
「だって可愛いんだもん、ほんと」
「…」
こっちは苦しいのに呑気なやつだ。
ぼんやりそう思っていると、全部食べ終えたのかもう摩り下ろした林檎は運ばれてこなかった。
途端に喉が酷く乾いたような感覚に戸惑う。
全身が熱くて、どんなに飲み込んでも唾液がどんどん分泌される。
のどかわいた、と掠れた声で言うと口に糖衣錠を放り込まれた。
流し込まれた水でそれをなんとか胃まで押し込める。
水と汗を拭ってくれる冷たいタオルが気持ちいい。
ぼんやり見上げていると、寝てもいいよ、と苦笑された。
どろどろとした睡魔に逆らわず目を瞑ると、ガシャガシャ、と遠くで聞きなれた足音がして。
あ、と思っていると、バチバチ、と激しい音と微かな閃光が閉じた瞼の裏で分かった。
「すみません大佐、遅くなっちゃって」
「あぁ、気にしなくていい」
「兄さんは…寝ちゃってるみたいだね」
エンヴィーに上半身を預けている体勢のままだったから、恥ずかしくて目を瞑ったままぼんやりそれを聞いた。
いくら体調が悪いとはいえ、大佐に甘えているようなところは見せたくない。
寝たふりなんて子どもみたい、だけど。
「ちゃんと薬飲んでくれましたか?」
「あぁ、少しは食欲があるようだ。果物なら食べてくれたよ」
ちらり、と机の上に置かれたお粥を見て、すみません、と頭を下げる気配がした。
そっとベットに寝かされて、冷たいタオルを額に乗せられる。
「それじゃあ私は帰るよ。鋼のをしっかり看病してやってくれ」
「はい、ありがとうございました」
ほっと息を吐いて、部屋を出て行った足音に薄目を開ける。
アルフォンスはお皿や薬を片付けているようだった。
なんだかんだで、まともな看病だったな。
ぼんやりそう思いながら、今度こそ睡魔に逆らわず目を瞑った。
***
本当なら今頃は、ここを出て西部で新しい情報を探していただろうに。
そう思うとじっとしてられなかったけれど、こんな状態じゃあ動けそうにもなかった。
置きっぱなしの文献も気になって仕方が無い。
ぼんやり目を開けると、部屋は真っ暗だった。
まだ真夜中らしい。
さっきも目が覚めて時計を見たら2時だったけれど、いまは何時だろう。
身体がだるくて、眠ってもすぐに目が覚めてしまう。
でも昨日よりは少しは楽になった。
相変わらず吐き気だけは和らいだとはいえ辛いけど。
ぼんやり闇を見つめて、こほ、と咳き込んだ。
酷く喉が渇いて、寝れそうにない。
渾身の力を振り絞って、ここに置いておくね、と言ったアルフォンスの声を思い出しながら上半身を起こす。
水が欲しくて探るように手を伸ばしていると、コップに当たったのか床に転げる音がした。
同時にばしゃ、と水が跳ねる音がして。
「あ…」
「なにしてんの?」
「へ…!?」
不意に声がして、慌てて顔を上げた。
真っ暗で見えないけれど、誰かいる。
そんなの声ですぐ分かった。
「お前、なんで」
「辛くないかなって様子見に来た」
「い、いつから」
「さっき」
零しちゃったね、と苦笑する声にごめん、と呟きながら俯いた。
置いておいた予備のタオルで床を拭く音がする。
「…見えるのか?暗くても」
「なんとなく。慣れちゃったからね」
「…」
「喉渇いたの?水持ってきてあげる」
「でもアルに見つかったら…」
「だいじょうぶ。そんな簡単に見つからないよ」
苦笑混じりに言われて、少し考えてから頷くと扉を開けて部屋を出て行った。
廊下を灯す光が一瞬差し込んで、長い黒髪が見える。
なんだか酷く安心感が湧いてきて、ふるふると首を振った。
でもエンヴィーのお陰といえば、たしかにそうだけど。
ぼうっと天井を見上げていると、身体が熱くてじわりと汗が吹き出す。
普通ならもっと汗で濡れていたはずの身体に、こまめに拭いてくれたのかな、と密かに思いながら目を伏せた。
***
持ってきてくれた水を飲んで、冷たいタオルで汗を拭かれていると今度はぐっすりと眠ることができた。
暑くて寝苦しいこともなかったし、時々目が覚めても水を飲ませてくれたし。
朝日が眩しくて目を開けると、同時に視線が絡んでにこりと微笑まれる。
布団の中から少しだけ手を出して、ぎゅう、とエンヴィーの指先を握った。
ありがと、と照れくさくて顔を逸らしながら呟くと、どういたしまして、と嬉しそうな声が降ってくる。
「具合はどう?」
「よくなった、けど…まだ出れそうにないな」
本も読んでないし退屈だ、と溜め息を吐くとエンヴィーは楽しそうに笑って、
「じゃあもうちょっと看病ができるね」なんて言った。
たしかに有り難かったけれど、アルにもエンヴィーにも迷惑を掛けているようで悪い気がする。
「お前は、いいのかよ」
「いいよ。だっておチビさん辛そうだし」
「…」
「こんなことしかできないんだけどね。なにか欲しいものあったら言って」
逆にエンヴィーが申し訳なさそうに苦笑したのを見て、どき、と心臓が一度大きく跳ねた。
だって一日中ずっと起きて側にいたのに、こんなこと、なんて何でも無いように言われて。
「…そろそろ弟くんが来ちゃうね」
「…あぁ」
頷くとエンヴィーが立ち上がって部屋を出ようとした。
ちょっと待て、と掠れた声で呼び止めると、なぁに、と振り向く。
「プリン、食べたいから…持って来い」
「…」
「今日の夜、絶対に」
言うときょとんとしたように目を瞬かせてから、うん分かった、と綺麗に微笑んだ。
エンヴィーが部屋を出てほんの少ししてから、ガシャガシャ、と足音が聞こえてきて。
キィ、となるべく音を立てないように扉を開けたアルフォンスと視線が合う。
「あ、兄さん起きてたんだね。具合どう?」
「…うん」
「なんか顔赤いけど、平気?」
「…うん」
首を傾げたアルフォンスが、なにか欲しいものある?と見下ろしてきて。
もういらない、と言って首を横に振って、額に乗せられたまだ冷たいタオルをそっと握った。
-end-
メイントップに戻ってください
恥ずかしいはずかしいハズカシイから!